◇10月29日・何で私が? 生演奏でエーデルワイス◇



 この日、バスはロマンチック街道をひた走り、見学地のローテンブルクへ到着した。城壁をくぐり抜け入ったローテンブルクの街は、ハロウィンの為か子供向けの遊戯場が設営され、祭りの屋台が立ち並んでいた。
 売っている商品は様々である。クレープやアイス、ポップなキャンディ。玩具やポケモンのカード、絵本。防寒具や大人向けの冬用下着を売っている屋台もあれば、絵画を売っている屋台もある。中には動物の剥製(雄鹿の頭部や鷹、栗鼠など)を置いているところもあった。
 昼食の後、ツアーのメンバーと離れて親子連れでごった返す屋台の間を歩き、花瓶ではないかと思われる小さな陶器を購入する。薄紅色の、蜻蛉のような羽を持つ少女の姿の妖精が、同様の羽を持つ緑の葉の上に腰かけた幼女に、衣装と同じ色の花の帽子を被せてる絵が印刷されている、白地に金の縁取りが施された容器だった。ひとめで惚れ込み買い取った品であるが、ドイツの物としては少々割高な値段であった(同日弟への土産に購入したクマのぬいぐるみは、その3分の1にも満たない価格なのである。すまん、弟よ)。
ドイツ・ワインショップの近辺風景 夕食は、宿泊先のホテルの裏の通りにあるつぐみ横丁のレストランで、生演奏を聴きながらカレー風味のジャガイモのスープと(これは3回も続けて口にした)、数種類のソーセージ&ハムの盛り合わせ、プラス擦り潰したジャガイモ(毎日主食がジャガイモだったので、皆の共通した感想は「当分ポテトサラダは食べたくない」だった☆ せめてフライドポテトにしてくれたら良かったのに)と酢漬けキャベツに洋梨のケーキのデザート、というメニューを食した。
 食事の最中、突然演奏が中断されたので何かと思って視線を向けると、ハロウィンの扮装をした子供が4人、演奏しているメンバーの前に立って例の決まり文句、「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」を宣言していた。なるほど、演奏が中断する訳である。
 だが、このハプニングに喜んだのは旅行の間中カメラと三脚を持ち歩き、時間があろうとなかろうと常に撮影を続けていた東京から参加の20代の女性。喜々として席を立ち、お化けや魔女の扮装をした子供達を撮るべくカメラを構えた。店の人間もそれを見て仕方がないと判断したのか、子供等を夜の中庭の席に移動させ、そこで臨時の撮影会、とあいなった。結果、他のツアー客もカメラを取り出し席を立つ。財布の入ったバッグ類を椅子に置きっぱなしで……。すっかり見張り番な私は、彼女等が戻ってくるまで立てなかった。私だって写真撮りたいのになー、しくしくしく。
 そして最後に運ばれてきた洋梨のケーキをいざ食べようとした時、指揮者の男性が箱を抱えて何やら呼びかけてきた。何かな? と思いつつ立ち上がるとおいでおいでの合図。訳がわからぬまま素直に歩み寄ると、いきなり手にカウベルを渡される。
 他にも何人かが指名され、大きさの違うカウベルを渡されて一ヵ所に集められると、ホールに用意された椅子へと着席させられた。
 そこで指揮者はおもむろに告げる。これから皆さんにエーデルワイスを演奏していただきます、と。聞き取れたのはエーデルワイスだけだったが、たぶんそう言ったのだ。その場の雰囲気から察するに。
 え、エーデルワイス? この場で即興で演奏? 地元のお客さんもいる席で?
 んな無茶な! と焦ったものの、逃げ場はない。指揮棒に指される都度、私は必死でカウベルを鳴らした。カウベルは、澄んだ奇麗な音色を奏でてくれたが、私の手にはちょっと重かった……。終わった後、腕がガクガクになる程に。異国の地でのエーデルワイス演奏は、いい思い出にはなったと思う。しかし、その時の私はひたすら、カウベル重いよーと感じていた。
 演奏終了後、拍手を受けて席に戻ったら同じテーブルのご婦人から、「いいわねぇ、私もやりたかったのよ。だのにあの指揮者ったら、若い人しか指名しないんだから」と文句を言われ、ちと苦笑。若い人……、それってどこまでの範囲を若いと言うのだろうか。私の1つ年上の従姉は、既に孫もいる身である。つまり、私もそういう年齢なのだ。だのに若い人と言われると、うーむ、である。
 ところでこの日のホテルの私の部屋は、何故かベッドが3つもある広い部屋だった。2人1部屋で泊まる、祖母と孫娘のコンビで参加していたツアー客の部屋が、とても狭くてベッドも2つ、だったのにである。1人で泊まるのにベッドが3つあっても仕方がないので、部屋を交換しましょうか、と申し出たが遠慮されてしまった。どうしてそういう部屋割りだったのかは、今現在も謎である。

−NEXT−