《カディラの風〜前編》 コメンテーター:織人 文様
指定どおり、前編を全部読ませていただきました。
大変面白かったです。書き慣れた文章と、個性的で魅力的なキャラクター、世界観、物語構成、どれを取っても申し分ないと思います。
殊に、ザドゥ、ロドレフ、ルドレフの主役級キャラクターたちは全員とても魅力的で、読んでいて強く惹きつけられました。それに、ザドゥとルドレフのやりとりがすごくいいですね。もともとこうしたコンビのキャラクターに強く惹かれる傾向のある私には、まさに美味しい二人でした。
前編ということで、物語としてはこれからというところで終わっており、時間があれば、続きも読みたいと強く思いました。
ただ、一つだけ気になったのは、キャラクターの心の中の台詞、いわゆる独白を《》でくくっていることでしょうか。一般的に、こうした台詞は()でくくられています。読者の側は、それが目に馴染んでいるため、見にくいというほどではなくても、ちょっととっつきが悪いように感じました。
ともあれ、素敵なお話を読ませていただいて、ありがとうございました。
《カディラの風〜中編》 コメンテーター:織人 文様
中編を最後まで読ませていただきました。
前編同様、書き慣れた文体で、大変読みやすく、楽しく読み進むことができました。
ルドレフが踊り子として登場するシーンや、闘技場での妖獣との戦闘シーンなど見せ場も多く、また迫力もあって読者を惹きつける力にあふれていると感じました。
キャラクターはどれもみな生き生きとしていますが、今回もルドレフとザドゥの二人がなかなかよかったと思います。二人のやりとりは、読んでいて、ついつい笑ってしまう場面も多く、「第三者の前で、ラブラブすぎ」と苦笑する場面もありました。いえ、それはそれで、個人的にはとても楽しませていただきましたが。
また、クオレルなど中編に来て初めて詳しく描写されるキャラクター、初登場キャラクターらも丁寧に描かれ、しかも彼らはどうやら後編への伏線を担っているらしい気配もして、先が楽しみです。
本編のもう一つの筋であるらしいパピネスとレアールの関係や、レアールの行方についても次第に明かされつつあるようで、このあたりは後編へ期待というところでしょうか。
少しだけ気になったのは、中編の最後が、このパピネスに関することで終わっている点です。
もちろん、前編・中編・後編の三つで一編なのでしょうから、こうした終わり方が悪いというわけではないのですが。
ただ、基本的にこの話はルドレフが主人公で、パピネスはいわば脇筋の主人公だという感じが読ませていただいてしました。そして、そうであるならば、やはりここはルドレフか、せめてロドレフに関することで終わる方がいいように思うのです。
けしてパピネスが脇役なのにでしゃばっている、という感じではないのですが……主人公と脇役に、はっきりとした陰影をつけるためにも、主旋律は常に主人公に語っていてもらう方がいいのではないだろうか、と思ったわけです。
それでは、なんだかほとんど感想になってしまいましたが、素敵なお話を読ませていただき、ありがとうございました。
《カディラの風〜後編》 コメンテーター:織人 文様
後編を最後まで読ませていただきました。
なかなか楽しかったです。意外な事実に驚いたり、ハラハラさせられたりと、前編、中編に続いて緩急のツボを心得た展開に翻弄されました。
ただ一つだけ苦言を呈するならば、物語の終わらせ方が、少しマズイかなと感じたことでしょうか。
続編があるために、その伏線を張りたかったのだろうな、というのはわかるのです。ですが、ここはまず、『カディラの風』という一つの物語として、作品を完結させなければなりません。そして、そういう意味ではここで、パピネスの相棒に関係のあるらしい妖魔について語るのではなく、主人公であるルドレフに関わる人々について書くべきだったと私は思うのです。
たとえば、その後クオレルや大公ロドレフはどうしたのか。また、共にずっと在ると誓っていたザドゥはこの事態に何を考え、どう行動したのか。そして、カザレントやイシェラはその後どうなったのか。
そうしたことを語ってこそ、『カディラの風』と題されたこの物語は本当に終わりを迎えるのではないか、と私には感じられました。
むろん、作者としては、そうしたことはまた別の作品で語るから……という思いがあったのかもしれません。ですが、続編が別のタイトルで描かれる以上は、やはりこれはこれとして、きっちりとその物語にふさわしい最後で締めくくるのが筋ではないかなと思うのです。
また、これは前編・中編・後編と全体を見渡して言えることなのですが、この作品にはルドレフを主人公とするものと、パピネスを主人公とする二つの流れが存在します。そして、最後がこのようになってしまった原因は、そのことにあると私は思います。
ここはすっきりと、ルドレフのみを主人公として、パピネスは脇役に徹していた方が、話としてはまとまりがあったのではないだろうか、と感じます。
あるいは、二人の主人公それぞれの話の流れを追うのであれば、もう少し話を長く、二部構成にでもして、一方でルドレフを追い、もう一方でパピネスを追い、最終的に二人を追う流れがからまりあって、一つの流れとなり、ラストに流れつく……という方法もあったかと思います。
ともあれ、最後の最後で「物語」としての完結からややズレたところにラストのコマを置いてしまった感じで、それがなんとも惜しいと思いました。
ということで、これからもどうぞがんばって下さい。
素敵なお話を読ませていただき、ありがとうございました。

前・中・後編通して丁寧な書評をありがとうございました。リライト担当者が言うのもなんですが、未熟で構成に難あり、な小説を最後まで読んでいただき感謝にたえません。
ご指摘いただいた問題点の一つは、紙媒体での発表時も言われていた事です。もっとストレートに「パピネス出さなくていい」という意見でしたが。
残念ながらリライト担当では、文章表現のまずいところや漢字の間違いを直す事は出来ても、ストーリーそのものを変える訳にはいきませんでした。作者本人が手直しできる状態にあれば、とその点が悔やまれます。
ともあれ、真摯な書評をいただけた事には感謝しております。ありがとうございました。
天越久遠
《小説の主張》様は閉鎖なさいました。ありがとうございます。(管理人)
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