……不可能だと思う。


 玄関を開けて、まるでどっかの電池つきのおもちゃのように、つまり定められたように、見上げながらすりよってくる時とか。

 目が合っただけで。後は何もないのに。目をまん丸にして、どんな遠くからでも近寄ってくる時とか。

 頬を近づけるとこすりつけてくれる時とか。

 抱っこしてる時の、あのうっとりしている顔とか。

 構ってあげないときの、あのふくれた顔とか。
 
 おなかが空いてる時の、あの精一杯高い声を出してる時の、あの切羽詰った顔とか。




 それだけで、もー溶けちゃいそうだと思うんだけど。





 でも本当に撮りたいのは。
 
 幸せそうに寝てるあいだ、時々ぴくって思い出したように体が揺れる瞬間だとか。

 何気ないものを見つけて、見上げる瞬間だとか。
 
 目を瞑る瞬間だとか。

 抱き締めて、顔を埋めると、鼻腔一杯に広がる匂いだとか。

 そんな時の、どーしよーもねーなぁ、みたいな眉の垂れ方だとか、
 
 生きている、柔らかい感触だとか。


 ……そーゆー幸せで仕方ない一瞬を、閉じ込めてしまいたい。

 それは無理。不可能。








 だったら、本当に何気ないものを閉じ込めておこう。

 君の手の、どアップだとか。

 ヒゲの一本だけだとか。

 しっぽだけだとか。

 耳の穴だとか。


 ……きっと、自分にしかわからないパズルのようになると思う。

 でもそれでいい。それが、いい。









 あー! わかった。

 そうか、他の人に抱っこしてもらったり、構ってもらったりしてる時、撮ればいいんだ。

 おおー。


 優しく、これ以上とないぐらい、甘く撫で上げられて。

 うっとり。目を細めたり。真ん丸くしたり。そんな表情を納める。

 それはきっと幸せ。喜び。

 いいなぁ、自分も触りたい、という羨望、嫉妬。

 ……そんな一杯な感情で胸が押しつぶされちゃいそう。まだ撮ってないのにね。







Pict&Text:しばたさえ様
レイアウト:Chani