赤い砂

赤い、赤い砂が舞う
砂塵をあげて トラックが止まる

俺は丸太を運ぶ
腕のない丸太、
首を無くした丸太、
それはかつて“人”だったもの―

トラックは 口を開けて待っている


汗で汚れた手が止まる
知っていた男の顔がある
昨日は“人”で、今日は“丸太”
車上から怒鳴り声、
俺はそいつを引き摺っていく
最後の一体を呑み込んで、
満腹した死神は動きだす

赤い、砂が纏い付く


殺し合う理由なんてわからない
誰が正義? 俺は知らない
感情は日毎に麻痺、
ためらいもなく銃を撃つ俺達
それでも“人”と呼ぶのだろうか


血を吸って赤い砂
屍の上 戦車は進む
空には黒煙 黒い雲
行き場をなくした魂が
いくつもとぐろを巻いている


赤い、赤い砂が舞う
大地が呪咀の 声を吐く
明日は俺も 丸太だろうか
トラックは もう見えない


赤い、砂が纏い付く
俺の躯に纏い付く
幾千幾万の死者の粒
恨みの砂が纏い付く

奴らの嘆きの歌のように


−ENDー



*1991年3月の作品です。どこぞの国が某国へ戦争仕掛けた影響もろですね……